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宇田川榕菴

宇田川榕菴

1798184648歳)

江戸後期の蘭学者・医師・化学者。江戸の大垣藩医の家に生まれ、のちに津山藩医で蘭学の名門であった宇田川家の養子となった。オランダ語を通じて西洋の医学・植物学・化学を学び、薬学や本草学の枠を越えて近代科学の体系そのものを日本語で紹介した。

1830年代には『植学啓原』と『舎密開宗』を著し、日本最初期の体系的植物学書・化学書を成立させた。この過程で「元素」「酸素」「水素」「窒素」「炭素」「酸化」「還元」「溶解」「細胞」「属」など、現在も用いられる学術語を数多く造語・定着させた。西洋概念を単に音写するのではなく、漢語として意味が通るかたちに再構成した点に大きな特色がある。

また温泉分析や試薬の製法、植物観察など実験・観察にも熱心で、翻訳者であると同時に実践的な研究者でもあった。江戸時代の段階で近代科学の語彙基盤を整えた功績から、日本化学史・植物学史の先駆者として高く評価されている。

27訳語数
オランダ語 / 英語 / ラテン語 / オランダ語(affiniteit)翻訳元言語
1825–1837年頃訳語年代

分野別訳語数

科学26
文化1

訳語一覧27

酸素科学
zuurstof / oxygen
オランダ語・英語江戸後期宇田川榕菴
「酸」は酸っぱいもの・酸を、「素」は根本要素を表す。オランダ語 zuurstof の字義を踏まえた翻訳借用で、「酸を生む基本物質」という当時の化学理解を漢語化した語である。
水素科学
waterstof / hydrogen
オランダ語・英語江戸後期宇田川榕菴
「水」は水を、「素」は根本要素を意味する。waterstof の直訳であり、「水をなす基本物質」というラヴォワジエ以後の化学観を簡潔に示す。
窒素科学
stikstof / nitrogen
オランダ語・英語江戸後期宇田川榕菴
「窒」はふさぐ・息を詰まらせる意、「素」は根本要素を表す。stikstof の「窒息させる要素」という意味を漢字二字で表現した翻訳語である。
炭素科学
koolstof / carbon
オランダ語・英語江戸後期宇田川榕菴
「炭」は木炭・炭化物を指し、「素」は根本要素を意味する。koolstof の直訳的構成で、炭の本質的成分という理解を表した。
白金科学
platina / platinum
オランダ語・英語江戸後期宇田川榕菴
「白金」は古くは銀を指す語でもあったが、榕菴はこれを再編して platinum の訳語に充てた。銀白色で貴い金属という外観的特徴を漢字で示した語である。
元素科学
grondstof / element
オランダ語・英語江戸後期宇田川榕菴
「元」はもと・根源、「素」は基本要素を意味する。grondstof や element の根本成分という意味を、簡潔な漢語として再構成した。
酸化科学
oxidatie / oxidation
オランダ語・英語江戸後期宇田川榕菴
「酸」は酸素・酸性概念を、「化」は変化を意味する。ラヴォワジエ的な「酸素を得て変化する」反応理解を簡潔に示す訳語である。
還元科学
reductie / reduction
オランダ語・英語江戸後期宇田川榕菴
「還」はもとへ返る、「元」は根本の状態を意味する。物質が元の姿に戻るという旧来の化学理解をよく表した造語である。
溶解科学
oplossing / oplossen / solution
オランダ語・英語江戸後期宇田川榕菴
「溶」は液の中でとけること、「解」はほどけて分かれることを意味する。物質が媒質中に分散して均一になる過程を、漢字の意味で精密に表した。
細胞科学
cel / cell
オランダ語・英語江戸後期宇田川榕菴
「細」は微細さを、「胞」は袋・包みを意味する。顕微鏡下で観察される小さな区画・小室という cell の像を、視覚的に捉えた訳語である。
科学
geslacht / genus
オランダ語・ラテン語江戸後期宇田川榕菴
「属」はある類に属する・まとまることを意味する既存漢語を転用した。複数の近縁種をまとめる分類単位という genus の機能を、簡潔に表した訳語である。
珈琲文化
koffie / coffee
オランダ語・英語江戸後期宇田川榕菴
語源はオランダ語 koffie、さらに遡ればアラビア語 qahwa に由来する。「珈」「琲」は音を写しつつ、玉飾りのような漢字を選んで異国風の飲料を雅に表した当て字とみられる。
親和科学
affinity
英語・オランダ語(affiniteit)江戸後期宇田川榕菴
「親」は人が近づき親しむことを意味し、「和」は争いなく調和・なごむことを意味する。合わせて「互いになじみ調和する」という字義となる。英語 affinity はラテン語 affinitas(境界を共にすること・縁戚関係)に由来し、ad-(~へ)+ finis(境界・端)から成り、「境界を接する→近さ・親しさ」を意味する。
性質科学
quality / property / nature
英語・ラテン語江戸後期宇田川榕菴
「性」は生まれつきのあり方、「質」は中身・本体を表す。quality はラテン語 qualitas(どのようであるか)に由来する。
塩酸科学
hydrochloric acid
英語江戸後期宇田川榕菴
「塩」は塩化物・食塩に関わる成分、「酸」は酸性物質を表す。hydrochloric は水素 hydro- と塩素 chlor- に由来し、HCl の酸を意味する。
舎密科学
chemie / chemistry
オランダ語・英語江戸後期宇田川榕菴
「舎密」は chemie の音を漢字で写したもの。chemistry は alchemy を経て物質変化を扱う学問を指す。
化学力科学
chemical force
英語江戸後期宇田川榕菴
「化学」は物質変化の学、「力」は作用。chemical force は化学的相互作用をいう。
親和力科学
chemical affinity
英語・オランダ語江戸後期宇田川榕菴
「親和」は互いに親しみ和すること、「力」は作用。affinity はラテン語 affinitas(近接・縁)に由来する。
元質科学
element / simple substance
英語・オランダ語江戸後期宇田川榕菴
「元」は根本、「質」は物質・本体。element はラテン語 elementum(基本要素)に由来する。
分解科学
decomposition / analysis
英語江戸後期宇田川榕菴
「分」は分けること、「解」はほどくこと。decomposition は composition(組成)を解く意。
蒸留水科学
distilled water
英語江戸後期宇田川榕菴
「蒸留」は液体を蒸発・凝縮して精製すること。distilled はラテン語 stillare(滴る)に由来する。
科学
acid
英語・オランダ語江戸後期宇田川榕菴
「酸」はすっぱい味を表す漢字。acid はラテン語 acidus(すっぱい)に由来する。
硝酸科学
nitric acid
英語江戸後期宇田川榕菴
「硝」は硝石、「酸」は酸性物質。nitric は nitre(硝石)に由来する。
硫酸科学
sulfuric acid
英語江戸後期宇田川榕菴
「硫」は硫黄、「酸」は酸性物質。sulfuric は sulfur(硫黄)に由来する。
塩素科学
chlorine
英語・オランダ語江戸後期宇田川榕菴
「塩」は塩化物との関係、「素」は元素。chlorine はギリシア語 chloros(黄緑色)に由来する。
科学
phosphorus
英語・オランダ語江戸後期宇田川榕菴
「燐」は鬼火・光る火を連想させる字。phosphorus はギリシア語 phosphoros(光を運ぶもの)に由来する。
植物学科学
botany
英語江戸後期〜明治期宇田川榕菴
「植物」は根を張って生育する生物、「学」は研究。botany はギリシア語 botanē(草)に由来する。