物理科学physics英語幕末〜明治初期物(もの・事物)と理(ことわり・道理・法則)を組み合わせた古典漢語。「物事の道理」を意味し、宋代朱子学の「格物致知」(物に格って知を致す)の思想にも通じる概念を転用した。
分析科学analysis / Analyse英語・ドイツ語明治期分(わける・分割する)と析(割く・細かく分け裂く)を組み合わせた造語。析は木を割るさまを表す字で、合わせて「細かく分け分けて明らかにする」という意味を持つ。
法則科学law / Gesetz英語・ドイツ語明治期法(規範・きまり・ルール)と則(のり・準拠すべき基準)を組み合わせた漢語。「守られるべき規範・準拠」という意味で、自然界の普遍的な規則性を表す語として定着した。
化学科学chemistry英語幕末・明治期化(かわる・変化する・変容する)と学(まなぶ・学問)を組み合わせた漢語。「物質の変化を研究する学問」という字義で、物質の組成・性質・変化を科学的に扱う学問を表す。
生物科学biology英語明治期生(いきる・いのち・生命を持つ)と物(もの・存在・実体)を組み合わせた漢語。「生きているもの・命あるもの」という字義で、生命を持つ存在(動物・植物・微生物など)全般を指す。
数学科学mathematics英語明治期数(かず・数量・論理・ことわり)と学(まなぶ・学問)を組み合わせた漢語。「数量・論理を研究する学問」という字義を持ち、漢字の「数」には「論理・ことわり」という意味もある。
地理科学geography英語幕末・明治期地(ち・大地・土地)と理(ことわり・道理・しくみ)を組み合わせた漢語。「大地のしくみと道理を研究すること」という字義で、地表の自然・人文的事象を扱う学問を指す。
研究科学research英語明治期研(とぐ・みがく・深く掘り下げる)と究(きわめる・突き詰める・奥深くまで探る)を組み合わせた漢語。「徹底的に磨き、究め尽くすこと」という字義で、事物の本質を深く探求する活動を表す。
衛生科学hygiene英語・ドイツ語明治初期長与専斎衛(まもる・護る)と生(いのち・生命)を組み合わせた漢語。「生命を守る・健康を護る」という字義で、荘子「庚桑楚篇」の「衛生の経(生を養うの道)」に由来する。英語hygieneはギリシャ神話の健康の女神ヒュギエイアに由来する。
定数科学constant英語明治期「定」(さだまる・一定の・固定した)と「数」(かず・すうち)を組み合わせた漢語で、「変化しない固定された数値」を意味する。英語constantはラテン語constans(固定して立つ・安定した)に由来し、動かない・変わらないという字義を「定」で表現した。
結核科学tuberculosis英語・ラテン語幕末期緒方洪庵「結」(むすぶ・固まる)と「核」(たね・かたまり・しこり)を組み合わせた漢語。リンパ節が腫れてかたまりを形成する様子から命名。英語tuberculosisはラテン語tuberculum(小さな瘤・結節)の縮小形に由来する。
情報科学renseignementフランス語明治初期酒井忠恕「情」(様子・実情・内容)と「報」(しらせる・告げる・報知)を組み合わせた語で、「情状の報知」を字義とする。敵の状況を知らせる軍事的文脈から生まれ、現代では英語informationの訳語として定着している。
進化科学evolution英語明治中期石川千代松「進」(進む・発展する)と「化」(変化する・なる)を組み合わせた和製漢語。英語evolutionはラテン語evolvere(展開する・巻き物を広げる)に由来し、もとは「展開」を意味した。ダーウィンが生物の変化・発展過程を表す語として用い、「進化」はその方向性(進む)を字義に込めた訳語となっている。
分子科学molecule英語・フランス語明治期「分」は分けること・部分を意味し、「子」は小さなものを意味する。「物質を分けたときの小さな単位」という字義。moleculeはフランス語molécule(1678年)から、さらにラテン語molecula(小さな塊)の縮小形に由来する。
原子科学atom英語・ギリシャ語明治期「原」は根本・起源・源を意味し、「子」は小さなものを意味する。「物質の根本にある小さな粒」という字義。atomはギリシャ語atomos(a-=否定+tomos=切ること)、すなわち「分割できないもの」に由来する。
質量科学mass英語明治期「質」は物質・本質・素材を意味し、「量」は量・大きさを意味する。「物質の本質的な量」という字義。massはラテン語massa(塊・固まり)から、さらにギリシャ語maza(大麦をこねた菓子)に遡る。
酸素科学zuurstof / oxygenオランダ語・英語江戸後期宇田川榕菴「酸」は酸っぱいもの・酸を、「素」は根本要素を表す。オランダ語 zuurstof の字義を踏まえた翻訳借用で、「酸を生む基本物質」という当時の化学理解を漢語化した語である。
水素科学waterstof / hydrogenオランダ語・英語江戸後期宇田川榕菴「水」は水を、「素」は根本要素を意味する。waterstof の直訳であり、「水をなす基本物質」というラヴォワジエ以後の化学観を簡潔に示す。
窒素科学stikstof / nitrogenオランダ語・英語江戸後期宇田川榕菴「窒」はふさぐ・息を詰まらせる意、「素」は根本要素を表す。stikstof の「窒息させる要素」という意味を漢字二字で表現した翻訳語である。
白金科学platina / platinumオランダ語・英語江戸後期宇田川榕菴「白金」は古くは銀を指す語でもあったが、榕菴はこれを再編して platinum の訳語に充てた。銀白色で貴い金属という外観的特徴を漢字で示した語である。
元素科学grondstof / elementオランダ語・英語江戸後期宇田川榕菴「元」はもと・根源、「素」は基本要素を意味する。grondstof や element の根本成分という意味を、簡潔な漢語として再構成した。
酸化科学oxidatie / oxidationオランダ語・英語江戸後期宇田川榕菴「酸」は酸素・酸性概念を、「化」は変化を意味する。ラヴォワジエ的な「酸素を得て変化する」反応理解を簡潔に示す訳語である。
溶解科学oplossing / oplossen / solutionオランダ語・英語江戸後期宇田川榕菴「溶」は液の中でとけること、「解」はほどけて分かれることを意味する。物質が媒質中に分散して均一になる過程を、漢字の意味で精密に表した。
属科学geslacht / genusオランダ語・ラテン語江戸後期宇田川榕菴「属」はある類に属する・まとまることを意味する既存漢語を転用した。複数の近縁種をまとめる分類単位という genus の機能を、簡潔に表した訳語である。
保健科学health / public health英語昭和前期「保」はたもつ・守る、「健」はすこやかさを意味する。字義通り「健康を保つこと」であり、health や public health の実践的側面を表す日本語として発達した。
空気科学air / atmosphere英語・フランス語・ドイツ語江戸後期〜明治期「空」はから・空間、「気」は目に見えない気体や作用を意味する。空間を満たす気体という字義から、air の訳語として用いられた。
解剖科学anatomy / dissection / autopsyオランダ語・英語江戸後期「解」はほどく・切り分けること、「剖」は切り開くこと。身体の内側を開いて構造を明らかにする字義をそのまま表す。
観察科学observation英語明治期「観」はよく見る・眺める意、「察」は明らかにする・詳しく調べる意。智慧によって対象を見極めるという仏教的字義が西洋科学の observation 概念に適合し転用された。
極科学pole英語・オランダ語江戸末期〜明治初期形声文字。「木」(棟木)+音符「亟」から成り、もとは建物の棟木を意味し「きわみ」へ転義。英語 pole はギリシャ語 pólos(天球の回転軸)→ラテン語 polus(軸の端)を経た語で、両語の「きわみ・軸端」という字義が合致した。
親和科学affinity英語・オランダ語(affiniteit)江戸後期宇田川榕菴「親」は人が近づき親しむことを意味し、「和」は争いなく調和・なごむことを意味する。合わせて「互いになじみ調和する」という字義となる。英語 affinity はラテン語 affinitas(境界を共にすること・縁戚関係)に由来し、ad-(~へ)+ finis(境界・端)から成り、「境界を接する→近さ・親しさ」を意味する。
流体科学fluid英語・オランダ語(fluide / vloeistof)江戸後期「流」は水がながれること、「体」は物質・からだ・形あるものを表す。合わせて「流れる性質をもつ物体」の意。英語fluidはラテン語fluere(流れる)に由来する。
聴学科学acoustics / auditory science英語明治期以降「聴」は耳で聞くこと、注意して音を受け取ることを表し、「学」は体系的な研究を意味する。合わせて「聞く働きについての学問」の意。
性質科学quality / property / nature英語・ラテン語江戸後期宇田川榕菴「性」は生まれつきのあり方、「質」は中身・本体を表す。quality はラテン語 qualitas(どのようであるか)に由来する。
本草学科学materia medica / pharmacognosy / herbal studiesラテン語・英語・中国語古代中国由来・江戸期「本草」は薬用となる草木、広くは薬用の動植鉱物を表し、「学」は体系的研究を意味する。materia medica はラテン語で「医薬の材料」をいう。
塩酸科学hydrochloric acid英語江戸後期宇田川榕菴「塩」は塩化物・食塩に関わる成分、「酸」は酸性物質を表す。hydrochloric は水素 hydro- と塩素 chlor- に由来し、HCl の酸を意味する。
伝染病科学contagious disease / communicable disease英語江戸後期「伝」は伝わること、「染」は病や毒がうつること、「病」はやまいを表す。contagious はラテン語 contagio(接触・感染)に由来する。
体魄科学body / physique / corporeal form英語漢語由来・明治期「体」は身体、「魄」は魂に対する肉体的生命・形ある身を表す。body は古英語 bodig に、physique はギリシア語 physis(自然・身体的性質)に由来する。
電論科学electricity / theory of electricity英語明治初期西周「電」は電気、「論」は理論・論究。theory of electricity は電気現象の理論的研究をいう。
雷学科学meteorology / atmospheric electricity英語明治初期西周「雷」はかみなり、「学」は研究。atmospheric electricity は大気中の電気現象をいう。
微分科学differentiation / differential英語明治期「微」はきわめて小さいこと、「分」は分けること。differential はラテン語 differre(異なる)に由来する。
宇宙科学universe / cosmos英語・ギリシア語古典漢語由来・明治期「宇」は空間的広がり、「宙」は時間的広がりを表すと解される。universe はラテン語 universum(一つにまとめられたもの)に由来する。
病理科学Pathologie / pathologyドイツ語・英語明治期「病」は疾病・やまいを、「理」は道理・原理・学問を意味する漢字。ギリシャ語pathos(苦しみ・疾患)+logos(理論・学問)に由来するドイツ語Pathologieを、病気の「ことわり(理)」と訳した漢語造語。
回虫科学Ascaris / roundwormラテン語・英語江戸末期「蛔(かい)」は虫偏に回を組み合わせた漢字で、腸内でくるくると回転・蠕動する虫の形状に由来する。「回」は渦を巻く・旋回するを意味し、線虫の蠕動運動・円筒形状を字義に取り込んでいる。
麻薬科学narcotic英語昭和初期「麻」は感覚を失わせる・しびれさせるという意味を持つ漢字で、「麻痺」「麻酔」など神経の鈍磨・麻痺を表す語に共通して用いられる。「薬」は薬物・薬品を表す。「神経を麻痺させる薬」という字義がnarcoticのギリシア語語根narkē(麻痺・しびれ)と意味的に対応しており、近代医学の文脈で訳語として充てられた。